【12日】天白さん: ねじれ国会を政権交代の布石として位置付けるターンアラウンドの一例

一院制論題の肯定側では、二院だと両院の多数派にならなければ安定した政権運営ができないという分析に基づき、一院にすることで政権交代が活性化し、政治の質や監視機能が高まるといったメリットを展開する例があります。


否定側としては、野党が弱すぎるので政権交代はしない、という反論を行うのが一つの定石ですが、より攻撃的に、むしろ二院制のほうが政権交代の可能性を高めるというターンアラウンドを狙っていくことで、他の反論も巻き込んだダイナミックな議論を展開することができます(展開できたとは言っていない)。

 

政権交代促進系メリットに対するケースアタックの例)

1.そもそも政権交代の前提として、与党の政権運営が十分な批判にさらされ、政権交代の必要性を意識させる機会が必要となるはずです。一院制の下で与党に批判票を投じる機会が生じることの立証がありません。

2.実際には、与党が多数を握る一院では十分な行政監視ができません。
2011年 駒沢大学教授 大山礼子『日本の国会』 182頁
「とはいえ、これまでの国会、とくに衆議院では議員が党派対立を離れた独自の立場で活動するのはむずかしかった。国政調査権の発動には多数決による議決が必要であるため、内閣(≒与党)の利益に反する調査はほとんど実施できなかった。そう考えると、ねじれは、国会による行政監視の実効性を高める千載一遇のチャンスととらえることもできるのである。」

大山が指摘するように、衆参でねじれが生じることでむしろ与党の問題が明らかになります。実例です。
2008年4月4日 MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/080404/stt0804040327001-n1.htm
「ねじれていない“正常な”国会で審議が形式的すぎ、不十分だったのではないか。それが証拠に、社会保険庁厚生労働省年金問題、道路整備特別会計を好き勝手に使ってきた国土交通省天下り先の独立行政法人…とまあ、汚れた雑巾を絞った泥水のように汚い話が次々と出てきた。」

 

3.参議院では野党が勝ちやすいのでねじれによる監視の機会が増えます。
2020年 慶應義塾大学法学部専任講師 松浦淳介「参議院選挙と安倍政権の国会運営」法學研究93巻4号 86頁
https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN00224504-20200428-0081
参院選に勝利することは決して容易とはいえず、実際に参院選では与党がその直前の総選挙と比較して得票率を低下させることが知られている。今井は参院選を「非政権選択選挙」、「中間選挙」と捉えたうえで、それと「政権選択選挙」としての総選挙では有権者の投票行動が異なるという観点から参院選において与党がしばしば敗北を喫する要因を分析している。」

 

4.ターンアラウンド。野党が勝ちやすい参議院があるほうが、選挙結果で政策が変わるという意識を国民に与えることで、政権交代の可能性が高まります。
2008年 北海道大学公共政策大学院教授 山口二郎 「通常国会の教訓と政権交代への課題」(週刊東洋経済06月28日号)
https://lex.juris.hokudai.ac.jp/csdemocracy/ronkou/yamaguchi080630.html
「また、政策の可塑性という感覚を国民が経験することができたのも、参議院における野党優位のおかげである。政策の評価は別として、国会の多数派を入れ替えることによって法律を変えることができ、それがたとえばガソリン価格の低下という形で生活に影響を及ぼすということを人々は発見した。選挙の結果別の政策を造り出すことができるという経験をすることは、政権交代のある政党政治にとって不可欠の前提となる。」
この分析の後である2009年、実際に、参議院第一党の民主党衆院選でも勝利しました。勝ちやすい参院選で野党が勝ったことではじめて、政権交代が実現したのです。

 

(解説)
1の部分は、何かいい資料があればいいのですが、プレパ不足で見つかっていません。質疑の段階から崩していけるとよいでしょう。なお、よく出てくる「ねじれだと責任の所在があいまいになり、業績への評価の原因をすべて与党や内閣に求めることができないので投票しにくい」という趣旨の議論(2017年 松浦淳介『分裂議会の政治学』181頁)については、「それではなぜ内閣支持率が変動するのですか?」「汚職や不祥事であればだれが悪いかははっきりしますよね?」といった質問が考えられます。

2の部分はデメリットで展開することも考えられます。仮に違うデメリットであるとしても、行政監視ができること自体意義があるということで、デメリット的に投票理由を作れますし、またそうすべきです。参議院での監視のメカニズムは政権交代とは別に成り立ちますし、政権交代が簡単には起こらないという反論を別途行っている場合には、長期政権だと批判の機会がなく腐敗してしまうので、たまに雑巾絞りできる二院制のほうがいい、という伸ばし方もできます。
また、少し切り口は違いますが、ねじれのほうが批判の材料が増えるという点では、政策の議論が公の場でされるようになって透明性が高まるという以下のような資料も活用の余地があります。
2009年 独立行政法人経済産業研究所上席研究員 西垣淳子 「ねじれ国会は問題か?」
http://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0254.html#note
「フランスで、初めて分割政府(コアビタシオン)が生じた1980年代(社会党ミッテラン大統領の下で1986年の議会選挙で社会党が敗北しシラク内閣が成立)には、政策決定に当初時間がかかり混乱を生じたが、次第に審議過程が透明化された、と言った長所も認められるようになった。同様に、現在のねじれ国会のもとで、従来、自民党内の意見調整という形で水面下で行われていた衆議院参議院の政策調整が、党をまたがるため、国会という公の場で行われるようになっており、議論の透明性、多層性は高まっているといえよう。」

今回の記事のポイントは3と4の部分です。
3の議論は、実際には、肯定側が観察なり内因性なりで読んでくることが期待される内容です(2021JDA秋決勝のケースでも読まれています。なお、結果的に全く議論されていないものの、このケースは割とよくできていたと思います。)。否定側から3の議論(とそれに続く4の議論)を出すことはあまり考えていなくて、肯定側から「参院選では勝ちにくいけど衆院選では勝てない」という話が出てきた場合に、これを4でひっくり返すというのが、今回紹介する議論の本来的な構想です。
与党の政権運営に疑念が生じた場合、それに対する批判を参議院という「おためし」のフォーラムで表出させ、野党に一定の抵抗能力を付与することで、与党の政策を抑制するとともに、そこでの与野党のパフォーマンス次第では政権交代で本格的にお灸をすえさせる、というメカニズムは、野党の政権運営能力に対する拭い難い不信感を前提にすると、日本において政権交代を実現させるために避けて通れないものであるようにも思われます。そういった意味で、そこそこ現実的な議論であろうとも思いますが、他方で、二回勝たないと政権交代できないという鈍重さもありますので、そのあたりの再反論はしっかりと準備しておく必要があります。

野党の意見が反映される点でねじれにも肯定的意義がある、といった典型的な内因性攻撃の議論とも当然相性がよいので、他の反論とも調整しつつ、一貫したストーリーの下でケースアタックを展開できると、厚みのある議論を築けると思います。

 

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