【23日】松田さん: リサーチの中で見えてくるもの

12月23日はJDA秋季日本語大会に選手としてご参加、優勝した松田拓さんです!!

いや~、こんなにどんどん豪華な方たちにご協力いただいて良いんでしょうか。。。

皆さん、ありがとうございます!!

 

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今シーズンでは主に肯定側立論を担当していました。

今回記事のお誘いを受けた際、シーズン中で印象的だった議論はなんだろうと考えたときに一つの議論が思い浮かんだため、対策を考えたその議論について取り上げ、どう向かい合っていったかをお話ししたいと思います。

 

1:難しい問題

肯定側では責任政治の実現のようなメリットを回していました。

現状、二院制であることで政策の責任関係が不明確なところ、プランを取ることで構造的に関係が一貫するというものです。

そのメリットに対し、当時、チームで頭を悩ませていたのが、責任関係が明確になることで政治家が責任を追求されることを恐れ、むしろ政治が進みにくく改革等も行われなくなるというターンアラウンドでした。

肯定側は責任関係が明確になることを証明するのも一苦労でしたが、それを乗り越えてもなお、むしろ論理的にはよくなくなるというこの反駁はかなり当時頭を悩ませるものでした。

因みに反駁で使われている資料は以下のものです。

 

成蹊大学 高安教授 2018年

奇妙なことに、キングらによれば、こうした集権性は「難しい問題(wickedissues)」を先送りするインセンティブも政府内に作り出す。政府は、集権的であるがゆえに、全ての決定について最終的には有権者の審判を受け、総選挙で拒絶されうることを自覚している。それゆえ、大臣たちは、「難しい問題」や取り組むべき長期的問題があることを知りながら、選挙で不利になることを恐れて、これらの問題を避ける傾向がある。熟議が英国政治に定着していれば、党派を超えて取り組むこともできたはずの問題が放置されているというのがキングらの観察である。英国の政治は、政権交代可能な政党システムとこれを可能にする総選挙により、政治権力の担い手を交代させることはできた。しかし、英国の議院内閣制は、政府の失敗を防止するという点では、決して上手く作動してきたわけではないのである。

高安健将(たかやすけんすけ・成蹊大学法学部教授)「議院内閣制ー変貌する英国モデル」2018年』

 

今回はこちらの議論にどう向き合ったのかを少し書いてみたいと思います。

 

2:原典を見てみる

こちらの対策を考えるために、まずはこちらの高安さんの原著を購入し該当箇所を確認。Kindleで購入するとすぐに手に入ることができ、検索もできるため、文明の力を感じる限りです。引用箇所の前後にその反証について書かれていることがあるため、前後をチェック。

特に気になる箇所は見当たらず。

さらに原典をあたってみるかと、高安さんが言っているキングさんの文献を見てみることにしました。

英語の論文は入手難易度が高いことが多くあたることができるか不安でしたが、意外にもKindleで本として出ていました。こちらを購入し見てみることに。

私は英語が得意な人間ではないため、勢いで買ったもののきちんと読めるかは不安でした。洋書をKindleで買ったことがなかったので初めて知りましたが、Kindleではハイライトすると翻訳ができる機能があることを発見。こちらの機能を駆使し、読み解いていくことにしました。

幸いなことに、高安さんの文献でも「難しい問題(wickedissues)」と述べていたので、wickedissuesで検索し、該当箇所の前後を確認することができました。

しかし、確認しても反駁の糸口になりそうな記述はなく、英語の読み解きの苦労は報われない形になりました。

 

3:さらに追ってみる

次に考えたのはこちらを批判するような文献がないかです。

例えば、今回の一院制であれば福元健太郎さんが『立法の制度と過程』の中で参議院不要論的に定量的な論文をあげていますが、それに対して対抗的な研究がいくつ存在しています。

同じように、今回のキングさんの研究に対してなにか対抗的な研究がないかを調べてみようと思いました。先程の「wickedissues」にキングさんの名前や原典の責任の追求などを検索ワードにいれてひたすら検索。他の別論点もみながらになりますが、二日、三日、仕事終わりに夜な夜なGoogleと向き合っていました。

検索していたキーの単語である「wickedissues」自体は今回のキングさんの研究の文脈以外にも使用されることが多いため、想定はしていましたが、なかなか欲しい情報が得られませんでした。

しかし、色々と調べてみると、キングさんが本の出版した後の資料が検索でひっかかってきました。

それを読み解くと次のような内容の記載がありました。(※日本語は機械翻訳です)

Professor of Government at the University of Essex Anthony King 2015

https://www.globalstrategyforum.org/wp-content/uploads/Global-Strategy-Forum-Lecture-Series-2014-2015.pdf p74~p75

その結果、何が起こるのでしょうか?ここ数年の英国の政府システムの顕著な特徴のひとつは、チャールズ・クラークが「難しすぎる問題」と呼ぶように、官僚や大臣が取り組むのをためらう「邪悪な問題」(ホワイトホールではこう呼ばれる)の数が多いことです。チャールズ・クラークが「難しすぎる問題」と呼ぶものです。(中略)

短期主義が支配していると言ってもいいでしょう。これは、政府が不人気なことをすれば責任を問われる可能性が高いことを知っているからでもあります。私が幻滅した3つ目の理由は、まったく別のものです。簡単に言うと、イギリスの大文字の「G」の政府がイギリスで起こっている非常に多くのことに責任を持っていたときには、権力者に責任の矛先を向けたり、賞賛の声を上げたりすることは全く合理的でしたが、先ほどマイケルが言及したこの本の中心的なテーマの1つは、イギリスの人々に最も密接に影響する事柄の非常に大きな割合についてイギリス政府に責任を負わせることは、もはや合理的ではないということです。これにはいくつかの理由がありますが、どれも明らかです。ひとつは、エジンバラカーディフベルファストへの権限委譲です。人々はいまだに国民健康保険サービスについて話しています。英国には国民健康保険サービスというものはありません。英国の4つの国には4つの国民健康保険サービスがあり、それぞれが異なる方針で運営されており、時には根本的に異なる方針で運営されています。

 

「難しい問題」の背景にはイギリスが中央集権的ではない面もあり、権限委譲をしているがために改革を強く推し進める力がないのではないかという仮説を立てることができました。

 

4:ではどうするか

チームでも内容を確認しながら、ブロックのブリーフに投入。

練習試合でも一回、途中までパートナーが返しとして上の資料を用いて返しました。

しかし、資料自体も長く、説明も細かな点に入ってくるため伝わりづらいこともありました。

また、そもそも「イギリスって二院制だよね」や「制度とか違う中そんな簡単にあてはめて言えるのか」とか「そんなにずっと重要な問題を放置したら国民からの批判高まるよね」などが練習試合後のチームの振り返りの中で出てきました。またジャッジの反応からもこの細かな資料レベルで返さなくてもいけるだろうと判断し

「彼らのキングさんの研究はイギリスの事例です。イギリスはイングランドをはじめとする4つの国の連合体であり、日本に当てはまるのか証明がありません。」といったダウトに止める形に落ち着きました。

 

5:どこかで生きてくる

ということで、細かなリサーチをそのまま形にすることはありませんでしたが、背景を知った上で議論を進めることは非常に勉強になったと思っています。

他の論題でもよくありますが、海外の事例は調べてみると他の個別事情や、制度設計が異なることで想定と異なることがよくあります。実は少しそういったものを知れるのも楽しみであったりします(議論的にも、個人の知的好奇心としても)。

多くの経験豊かなディベーターであればこういった話はあるあるな話かと思います。

今回こういった形で記事にする機会をいただけたため、私の視点からではありますが、

一つの議論についてどう向き合ったかの軌跡をなるべくリアルに残すことで、初学者の方の参考になればと思い取り上げさせていただきました。

 

多くのディベーターのこういった試合の影に見えない努力に敬意を表して、文を終わりたいと思います。雑文ですが、読んでいただきありがとうございました!

 

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