【13日】小林さん: 問いと回答ー論題を通じた学び

12月13日(月)のDebate Advent CalendarはJDA秋季日本語大会に選手としてご参加だった小林茜さんの記事です!!!

 

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問いと回答―論題を通じた学び

 

今年の秋季ディベート大会では、知的好奇心をくすぐられる色々な議論と出会った。

試合そのものだけではなく、試合やリサーチを通じた学びもディベートの面白さである。

この記事では、論題との格闘の過程で得た学びについて記したいと思う。

 

1.民主主義は多数派とは言えない

最近、中国とアメリカの対立が激しくなっており、米中新冷戦などと称されている。

その文脈で盛り上がっているトピックの1つに、「世界民主主義サミット」の開催がある。

NHKの報道(「米「民主主義サミット」閉幕 バイデン大統領は成果を強調」,2021/12/11)によれば、同会議を主催するアメリカのバイデン大統領はこう述べる。

『民主主義の価値観は国際システムの中心にあると確信している。われわれは、21世紀の発展の基準となるルール作りに向けて連携して取り組む』。

 

この点、客観的データに目を向けてみるとどうだろうか。

民主主義に関する研究機関「V-Dem Institute」は、世界178か国を対象とした研究(『DEMOCRACY REPORT 2021』,2021)を公開している。

同研究は、世界各国の政治体制を①完全な独裁主義、②選挙による独裁主義、③選挙による民主主義、④自由民主主義の4つに分類し、その推移等を検証したものだが、これによれば、独裁主義的国家(①、②)は87か国(世界人口の68%)であるのに対し、民主主義的国家(③、④)は92か国(世界人口の33%)である。

独裁主義的国家は、国の数では微差で民主主義的国家を下回るものの、人口比率では実に世界の2/3を占める(中国、インドなど、巨大な人口を抱える国が当該グループに属していることの影響が大きいと思われる)。

 

もちろん、①完全な独裁主義は1971年から2021までの49年間で7割減少しており、③選挙による民主主義は3.7倍に増加しているため、長期的トレンドとしては、民主化が進んだと言えそうである。しかし興味深いのは、同期間中、③選挙による独裁主義が約1.7倍に増加している一方、④自由民主主義はここ10年で約2割減少していることである。

 

どうも、独裁政治はより巧妙な形で広がりつつあるように見え、経済発展と共に民主化するという「常識」に疑義が呈されているようにも見える(これらの分析は、次の記事に詳しい。ニューズウィーク日本版「世界でもっとも多い統治形態は民主主義の理念を掲げる独裁国家だった」,2021)。

 

2.「民主主義の危機」はなぜ起きたのか

東京大学宇野重規教授は、著書『民主主義とは何か』(2020)の中で、近年、民主主義が直面する危機について、①ポピュリズムの台頭、②独裁的指導者の増加、③第四次産業革命、④コロナ危機の4つを挙げている。

詳細は省くが、経済発展と共に民主化するという「常識」が覆されてしまったのは、中国やインドなどの急速な成長を背景に、トップダウンで迅速に決定した方が、社会環境の変化への対応や経済成長にとってプラスであるという考え方が広がりを見せつつあることと関係している(裏返せば、審議の形骸化、決定の遅さなどの諸問題に対し、不満が高まっているということでもある)。

 

どこかで聞いた話ではないだろうか。

そう、これはまさに、一院制論題における典型的「メリット」なのである。

民主主義に様々な課題(あるいは国民の不満)があることは、今季の肯定側の議論でたびたび語られた内因性の議論を参照していただければ明らかである。

 

3.民主主義への不満と「ゼロ院制」

その意味で、「ゼロ院制」の議論は、きわめて鋭い問題の指摘方法であったと思う。

先に述べたとおり、世界的に民主主義への不満が高まっていることは否定できない。

これを問題視し、リーダーによる決断を強調する政治学者は戦前から存在した。

それが、マックス・ウェーバーであり、(ゼロ院制の冒頭で言及された)カール・シュミットである(詳しくは、『民主主義とは何か』を参照していただきたい)。

ここから、決勝における否定側の主張は、「決められる政治」をキーワードに政治学の系譜を辿ると見えてくる重要な論点であることが分かる。

 

4.「ゼロ院制」は良いものか

ハーバード大学のレビツキー教授は、著書『民主主義の死に方』(2018)において、タイトルどおり、各国における民主主義の死に方を丁寧に記録している。

皮肉なことに、「民主主義サミット」を主催するアメリカにとっても、民主主義の危機は無関係ではない。

同書によれば、一部の政治家において、議会における慣習の無視(例えば、裁判官の指名における議事妨害、少数派に発言・修正の機会を与えないなど)、過激な言動などが生じ、それが政党間の激しい対立へとつながり、最終的に、トランプ政権における社会の分断へとつながった(対立を煽る言動、議事堂襲撃事件などは非常に印象的である)。

 

ここで思い出すのは、決勝の肯定側がCPDAの中で言及した、「国民の(小さな)声を聞くこと」の重要性である。

 

トランプ大統領の過激な言動が一定の力を持った要因の一つとして、「取り残された」白人貧困層の不満の受け皿となったことが指摘されている(例えば、ニューズウィーク日本版「トランプに熱狂する白人労働階級「ヒルビリー」の真実」,2016)。

 

シュミットらの議論は、危機の時代(コロナ危機はその一種である)において強い魅力を持つ一方、政治から排除される者を生み出す懸念があり、もしこのような排除が生じるとすれば、安定した国家運営に疑義を感じざるを得ない(あるいは、過去の事例や他国の事例に目を向けると、反発を抑え込むために、言論統制や暴力などの危険な手段に繋がる場合もある)。

 

「議会(議員)が国民の声を拾えているのか疑わしい」という否定側の指摘には説得力があるものの、肯定側の指摘するとおり、議会が国民の声を吸い上げて立法を行ってきた事例があることもまた、否定できない事実である。

決勝における肯定側の問題意識は、議会の必要性を考える一助になりうると思う。

 

5.問いに対する回答

今シーズンは、「ゼロ院制」や「決められない政治」をはじめとする他チームの議論と真正面から向き合い、「議会の意義とは何か」という問いと格闘するシーズンであった。

私なりの「議会の意義」に対する回答は、「個人戦」の予選第1試合で使用した立論である。

拙い内容ではあるが、もし興味のある方がいらっしゃれば、以下のリンクをご参照いただければと思う。

 

  • 否定側第一立論

https://docs.google.com/document/d/1fVjAQ7m0U4tt0yjSgr1yA5f-NR0B1NCsE68G2Ou0mEE/edit?usp=sharing

 

  • 否定側第二立論

https://docs.google.com/document/d/1W5G2swMDQ0IEHfy5u-W6BfjRJeEYhcLfu0m2emwyQR0/edit?usp=sharing

 

  • ケースアタック

https://docs.google.com/document/d/1WUrMvphWXZOy3OCA8JhqhHQoF5yt_qttDrB2ZG0mcX0/edit?usp=sharing

 

このたびのJDAは、まるで『銀河英雄伝説』の世界のような、非常にエキサイティングなシーズンであったことは間違いない(『銀河英雄伝説』については、公式サイトをご覧ください)。

改めて、大会主催者、パートナー、そして考える契機を与えてくださった対戦チームの皆様に対して感謝を申し上げ、この原稿を終えたい。

本企画では建設的なコメント、応援コメントのみ掲載させて頂きます。執筆してくださっている方へ温かいコメントを是非お願い致します!